第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
「メグっ!」
服の裾を思いきり引っ張り、詞織が伏黒の前に立つ。そして――……。
――ガッ‼
彼女の頭の側頭部を【游雲】の切っ先が掠めた。
「詞織ッ‼」
血の気が引く。傾ぐ詞織の身体を抱きとめ、激しく揺すりたい気持ちを押し殺して呼びかけた。
「詞織! 詞織……ッ‼︎」
「メグ……無、事……?」
「あぁ! あぁ、無事だ! オマエ、なんでこんな……っ!」
「……だったら、いい……」
ふわっと笑みを浮かべたかと思うと、詞織はそのまま気を失う。
「詞織!」
伏黒はとっさに呼吸を確認した。息はある。相手の攻撃も直撃は免れた。額を切って出血は激しいが、致命傷には至っていないことが救いだった。
この状況でも詩音が出てこないということは、まだ気を失っているのだろう。彼女の力を当てにはできない。
どうする?
同じ手は二度 通じない。それでも……。
「詞織……ッ!」
――絶対 殺す! 刺し違えてでもッ‼
どんな式神もコイツの前では瞬殺。だが 一体だけ、こんな化け物じみた強さのヤツでも“確実に殺せる”のがいる。
気を失ってぐったりとした彼女の身体を抱きしめるも、伏黒は男から目を逸らすことなく睨みつけた。
* * *