第53章 恐怖を讃えるコラール【渋谷事変】
「はぁっ! はぁ……っ!」
【鵺】の術式を解いた伏黒は、詞織を背負い、再び男から逃げる。
「メグ……もう、いい。わたしを置いて行って。時間くらい稼げる」
「バカ言うな! オマエを置いて行く選択肢なんて最初(ハナ)からねぇッ‼」
こちらの唯一のアドバンテージは、【反転術式】の使い手が渋谷にいること。星良は渋谷を駆け回って所在不明だが、家入の居場所は固定――すぐ近くまで誘導できた。
特級を圧倒した化け物。自分の式神など瞬殺だ。だが、これからの渋谷で式神を失い、手数を減らすわけにはいかない。
だから、無理を利かすなら自分自身。
即復帰できる怪我で、この場を収める!
伏黒は直線の路地へ入り、詞織を奥へ座らせ、もう一度【鵺】に守らせる。
コースは絞った。影でコイツの足をすくい、体勢を崩す。
目で追うな。後はタイミングだ。
タイミングを外せば死ぬ。
タイミングを外せば死――……。
【脱兎】を蹴散らしながら男が迫る――……今だ!
男の体勢がガクンッと崩れる。伏黒の影が男の足を捉え、放たれた【游雲】の切っ先は致命傷からズレ、脇腹に刺さった。
伏黒は男を掴み、詞織の使っている呪具を男の腹に突き立てる。だが、そこに男の姿はない。伏黒の腕を振り払い、跳躍して逃げられた。
――クソッ! なんでこれが避けられんだよ‼
距離を取った男が弾丸のように迫ってくる。
――しまった!
渾身の作戦を躱されて動揺し、伏黒には隙が生まれた。
【脱兎】が伏黒を守ろうと壁を作るが、それを【游雲】で斬り捨てながら突き進んでくる。
逆手に持った【游雲】が振り上げられ、伏黒はとっさに顔の前で腕を交差させた。