【ONE PIECE】私の居場所~アナタの隣に居たかった
第51章 罠
ミスティをベッドに寝かせ、グラスに水に注ぎ口に近付けてやった。
「飲め。」
諜報部員としてやってきた此奴ならこれが気休め程度な事は知っているだろう。だが、無意味なそれでも構わないと思い自室でグラスに手を伸ばした筈だ。飛び散ったガラスがそれを物語っている。
口に近付けグラスを傾けると水はミスティの口にではなくそのまま零れ落ちていった。焦点が定まらない目は宙を彷徨っている。
「医療行為だから怒んなよ」
半開きになっているミスティの唇に触れ、水を含んだ状態で口付けた。舌で唇を割り水を注ぎ込む。
コクン…
ミスティの喉が小さく鳴った。それから何度か繰り返しある程度の水を飲ませるとミスティが俺の方に視線を向けた。
『…ロー…』
俺の名を呼んだ。
「…何だ?」
『…薬打って?もっと強いものを…』
「何!?」
『お願い…っ!』
ミスティは必死に耐えているのだろう。長年、諜報部員としてやってきた此奴ならこれを鎮める方法なんざ嫌という程知っている筈だ。それをせずしてこの苦しみに耐える為に、更に強烈な薬で上書きしようと懇願するミスティ。
「ダメだ。ぶっ壊れるぞ。」
俺は即効で断った。
「強い薬は副作用も大きい。悪いがこればかりは無理だ。耐えろ。」
『…んっ…ふっ…もう無理…』
ビクビクと震える身体を自身で抱き締めながらミスティは涙を流す。その顔に先程抑えた筈の気持ちがぶり返してきた。
「…悪い。少し外す。」
俺はそう言うと立ち上がり部屋を出ようとした。
クイッ…
「っ…!」
右手の小指を掴まれ弱々しいが力が込められた。
『ロー…』
「やめろ、離せ。」
このままでは不味いと本気で思った。先程とは逆に今度は俺が必死にミスティを拒絶した。だが…
『ロー…楽になりたい…っ』
その言葉に、振り返るとそこには女のミスティが居た。普段、俺達には見せない妖艶な此奴が俺を見つめていた。
「…っ!!」
『ロー…っ!!』
「…分かった。だが薬は使わねぇ」
『……』
俺はミスティに覆い被さった。
「俺がお前を楽にしてやる…良いな?」
俺の意図を察したミスティの目が揺れた。
『ロー…』
俺の頬に弱々しく触れた此奴の手が返事だと思った。
──後悔すんなよ