第3章 三夜目.トライアングラー
—1小節目—
prologue
「和泉三月、あからさまだったなあ」
「さっきの収録ですよね。自分も同じこと思いました!やたらとあの新人女優ばっかりに話題振ってんなって」
「ははっ。まぁ、よっぽど気に入ったんだろ」
怒りとか悲しみとか、そういう感情が一切湧かないとは言わないが。
“ この番組のスポンサーが無理矢理にでも話振ってやってくれって収録前にオレの楽屋に来たんだよ!番組にとってスポンサーがどれほど大事かは、あんたらみたいな末端ADでもお分かりになりますよねえ!? ”
などと彼らに怒鳴り散らすほどの原動力、オレの中にはなかった。
バラエティやトーク番組のMCを任せてもらえる機会が増えれば、こういう陰口を叩いている輩に遭遇することもそれに比例して増えた。
だからだろうな。
自分を悪く言われることにはもう、慣れてしまった。
もう、観てくれている全員に自分の役割を理解してもらおうなんて思わない。自分でも気付かない内に、諦めてしまったのだ。
「あ、思い出した。そういやあの新人女優、TRIGGERの八乙女楽にぞっこんらしいぞ」
「マジですか!新人のくせに、大物狙うなあ」
「まぁ骨抜きにされるのも頷けるけどな」
「八乙女楽が相手じゃ、和泉三月は望み薄ですねー」
「だな。IDOLiSH7は確かに大所帯なこともあって、ぱっと人目を引くけど…。和泉三月は、なんていうか華がないんだよな!」
「アイドルにしては、派手さがないですよね」
そんなこと、自分が一番よく分かってんだよ。
奥歯をぎりっと噛み締めて、固く拳を握る。この拳が誰かを傷付けてしまう前に、この場を去ろう。スタジオに起き忘れてしまったボールペンは、きっぱりと諦めることにした。