第2章 二夜目.ファンには夢を、君には愛を
—7小節目—
ほどほど
寮へと帰った大和を出迎えたのは、キッチンに立つ三月であった。しかも、人の気も知らないで呑気に鼻歌を奏でている。
「おかえり。遅かったな!もうちょいで飯出来るけど、食うよな。あ、酒はほどほどにしろよ?明日はライブなんだからな」
「随分と機嫌のよろしいことで。外でどんないいことあったんだよ」
「あ、やっぱ分かる?実はさ、好きな子とデートしてきた」
大和は、頭が割れそうに痛んだ。気を抜くと、大切な仲間に殴り掛かってしまいそう。しかしなんとかギリギリ、大和は黒い大和を抑え込んだ。
「そんな幸せそうなミツに、良いこと教えてやろうか。あらびっくり!お前がデートして来た相手は、実は俺の彼女さんでしたー」
「バーカ。んなことな、こっちはとっくに知ってんだよ」
「お前が人の女寝取る趣味あったとは知らなかっ…。え?今、なんて?」
「オレが強引に誘ったんだからな。中崎ちゃん責めんなよ?」
それはもう、時既に遅しというやつだ。しかし今はそれよりも、大和にはもっと気になることがあった。
「てか寝取るって…おっさん、ほんと馬鹿だな。恋は盲目とはいえ、目の前真っ暗にもほどがあんだろ」
「いやいや、いやいやいや、ごめん。ちょっとだけ待って。頭が、頭が追い付かないんだわ!酒も飲んでないのに!悪いんだけど、こんな馬鹿な俺にも分かるように説明してくれる?」
「しゃーなしな!」
三月は、苦笑しつつも丁寧な説明を始める。
エリと大和が秘密裏に付き合っていることに、三月は気付いていた。しかし、エリがADであるくらいの知識しか彼にはない。そこで、悪いとは思いつつも裏でエリのことを調べることにしたのだ。
「壮五とナギとも相談して、もう裏でこそこそするより直接どんな人間か確かめようぜ!ってなったんだよな」
「……え。ソウとナギにまでバレてんの?」
「バレてるバレてる!言っとくけど気付いてないの、お子ちゃま組ぐらいだからな」
衝撃的事実に、大和は頭を抱えた。