第1章 一夜目.5時限目の空
—1小節目—
prologue
私達がIDOLiSH7として形を成し、しばらくの時が経過した。ライブを行えば、空席がなくなるくらいの存在にようやく手が届き始める。そんなタイミングだった。
“彼女” のことが、気になり始めたのは。
その日、私と四葉さんは自分達のライブチケットを数枚手にして学校へと赴いた。マネージャーから、いつも懇意にしている友人にたまにはプレゼントしてはと託されたのだ。突然そんなことを言われても、そんな相手がパッと浮かぶはずもなく。面倒だったので、自分のノルマを四葉さんに手渡した。
彼はほんの少し渋い顔を見せたが、それを突き返しては来なかった。厄介ごとは早く片付けるが吉と、早速チケットを配り始める。相手は、たまたま私達の側にいた女子グループ。私とも四葉さんとも、特段 仲が良いわけでもなかったし、お世話になった記憶もない。
そう。ただ、近くにいた。それだけの理由で、彼は配布相手にそのグループを選んだのだった。
その中に、彼女もいた。
嬉々として、四葉さんからチケットを受け取っていくクラスメイト達。黄色い声を、私は教科書に視線を落としたままで聞いていた。
「ん。あんたにも。ほい」
『私は、いらない』
教科書から思わず顔を上げ、声の主の方を確認する。鈴を転がしたような声を持つ彼女を見た途端に、胸の真ん中がざわっとした。
無料で手に入るチケットを受け取らない理由は、そう多くないだろう。もしIDOLiSH7に好意を持っていたならば、断る理由などないはずである。つまり彼女は、私達に興味がないかあるいは嫌悪を抱いているのだと、私は推察した。
だからだと思った。この心が、騒ついたのは。