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十六夜の月【アイナナ短編集】

第6章 六夜目.その御伽噺の続きを私達はまだ知らない




—6小節目—
有意義な現実逃避


以降、エリとハンサムはチームを組むことが多くなった。少しではあるが、チャットを使い日常会話をしたこともある。
その日も彼と、楽しい時間を共有していた。いつのまにかエリは、この時が来ることを心待ちにするようになっていたのだった。

だが今日。ようやく失恋から浮上し始めた彼女を、再び地に落とすような出来事が起きる。
それは、三ゲーム目を開始した直後。ようやく腕が温まってきた頃合いでの接敵。エリはスコープを覗き込み、トリガーに指を掛ける。しかし、引き金を引くことなくフリーズしてしまった。


『……』
(彼だ…)


スコープで見つけてしまったのは、紛う事なく元彼氏であった。見慣れたアバターも、呼び慣れたアカウント名も、癖のあるキャラコンも、何一つ変わっていない。

莫大な数のユーザーを抱えるIPEXで、わざわざ元彼とマッチングしなくても良いのに。それだけでもショッキングなのだが、さらに彼女を打ちのめす事実を目の当たりにする。

それは、元彼とチームを組んでいる人物の正体。たどたどしい動きから、初心者であることが窺える。その人物は、実はエリの知り合いであった。
アカ名とIDから見て、間違いなく会社の後輩である。

“ 最近出来た彼氏の影響で、私もIPEXを始めたんですよ!これ、アカウント名とユーザーIDです。先輩とプレイ出来る日を楽しみにしてますね?”

などと告げた時の、何故か満足げな後輩の笑顔がはっきりと思い起こされた。


『…はは。なるほどね、そういうこと』


そう。同僚である元恋人の、新しく出来た好きな人とは…
この後輩だったのだ。

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