第4章 四夜目.恋のかけら
「でもほらぁ、エリチャンは今ユキユキのセットしてるから、ね?」
「いや、だからいいって。さっきえりりんが、続きは絶対にしてくれるって言ってたし。だから待つ」
「もう、タマタマ…我儘言わないで」
「っ、タマタマって呼ぶなよ!!」
突然の大声に、スタッフも演者も全員が環の方へ顔を向けた。彼は、はっとした様子ですぐに謝罪の言葉を口にする。
「あ…、ごめん。いきなりギャって怒って…。八つ当たりした」
「ううん。アタシこそ、ごめんなさいね。アナタの気持ちは知ってるのに」
環は首を振ると、少し頭を冷やして来ると言ってメイク室を飛び出してしまった。
シンと静まり返るメイク室で、千は全員の視線を集めている。
「僕が全部悪かったって言いたいんでしょ。そんなの僕だって分かってるよ。だから、そんなふうに皆んなで見るのやめて!」
『…千さんは、Sっ気が強過ぎるんですよ』
「君がMなら、僕らは相性がぴったりだ」
『どセクハラですよ、折笠さん』
「怖い怖い。謝るから、いつもみたいに千って呼んでよ」
実は、千はそれなりにエリとの付き合いが長い。しかしこうも長い時間、エリの顔から笑みが消えるのを初めて見た。
本人は直接的なことは言わなかったが、環を強く揶揄ってしまったのが原因と見て間違いないだろう。
「……」
(へぇ…。てことはこの二人、いずれはひょっとすればひょっとするのかもな)