第4章 水魚之交
______ぽちゃん。
水滴が乾いた地を濡らす。次第に湿り始めた地面に水溜りが作られていく。洞穴のような底の深い薄暗闇の中で美代は一人で歩いている。この場所を美代は知っていた。以前にも夢の世界で見た場所と同じだ。
「______おい、小娘」
ふと、聞き慣れた声がした。なぜ、宿儺がこんな所にいるのだろうと不思議に思いながら、辺りを見渡した。しかし、宿儺の姿は中々見当たらない。
「宿儺!!どこにいるの?!」
声を上げるも、返事はない。確かに声が聞こえたというのに。どこかに彼が居るのを感じて辺りを見回すと、少し離れた場所に積み上げられた頭蓋骨を見つけた。心なしかそれらに睨まれているような気がして、気味の悪さを覚える。それでも、美代は誘われるように無意識に足を進めていた。
「なに、これ……?」
死の象徴を示した髑髏が返事をすることもなく、美代を見つめている。
果てしない頂点は暗闇に沈み、見上げても見上げても姿を現すことはなかった。しかし、美代は気づいていた。茫々と続く頭蓋の山の終わりには、"何か"が在ると。その何かに見つめられているせいか、視線を強く感じる。
「______美代」
またしても、名前を呼ばれる。
けれど、それと同時に夢の世界は終わりを告げた。
名前を呼ばれるのを合図に、意識がどこか遠くへと落ちていくのを感じる。
(あぁ、まただ。また、同じ夢……)
______ぽちゃん。再び水の滴る音がする。
やはり、冷たい。冷えきった水が流れ込む。そして沼のような泥濘に身体を奪われて、美代はまたしても眠りに落ちていった。