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【呪術廻戦】致死量の呪縛

第2章 触らぬ神に祟り無し


見えないものが見えてしまった時、聞こえない筈の声が聞こえてしまった時、どう対処するのが普通なのだろうか。
美代は物心付く頃から、そんなどうでもいいことばかりを考えていた。それくらいしかすることも無ければ、楽しみもない。息を吸って吐いて、そして終わる空虚な毎日。ただ、人には見えないものが見える。人には聞こえない声が聞こえる。他人と自分の違う所は、本当にそれだけなのだ。
決して普通ではあり得ないのに、それがいつしか美代にとっての、普通の日常になっていた。
慣れ、とは怖いものだ。いつしか異常が普通に成り代わってしまうのだから。

「小娘」

「なに?」

教室を出て直ぐ、人気のない廊下を歩いていると、美代を何度も呼びかける声が聞こえてきた。姿形は見えないというのに、不思議と声だけは頭の中で何度も鳴り響く。

「俺が呼んだら直ぐに返事をしろと言っただろう」

「ごめんごめん。学校だと私が独り言を喋ってると思われるでしょ?だから教室の中では返事できないよ?」

「お前は生意気な小娘になったな。昔は素直で愛い奴だったというのに」

楽しそうに嘲笑う"何か"。
どこにいるのか、存在しているのかも分からない。また彼の言う"昔"のことは美代には分からないので、複雑な感情全てが混ざり合っては、虚しくも行き場を無くして呆れの溜息に変わる。何度か、いつからか、ずっと脳内で鳴り響く得体も知れぬ声。その正体は一体何なのだろうか。ずっと、謎めいたままだった。

「……ねえ、宿儺。あなたどこに居るの?」

声の主は、両面宿儺という名だった。気まぐれだろうが、以前彼から聞いた本名である。

「何だ、小娘、俺に会いたくなったか?」

「ううん」

得体も知れぬ不気味な声だけを頼りに、誰が会いたいと願うのだろう。これ以上怪奇現象とやらには巻き込まれたくないというのが確かに美代の本心である筈だった。

「お前は本当に素直ではないな」

どこか楽しそうに笑う宿儺は、本当に一言で表すなら自分勝手な気分屋だった。呼びたい時に美代を呼び、都合が悪くなれば何も話さなくなる。世界が自分中心に回ってると思っているに違いない。
はあ、と美代の口からまたしても重たい溜息が溢れ落ちていった。
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