第53章 板挟み

「時間は仲直りの特効薬だけど、時間に頼りすぎてはダメよ。以前に同じことがあったでしょう？」

…あった。
お互いの誤解がどんどん大きくなって、それで2人は長い間離れていた。
自分はシンのもとへ行き、リヴァイはアリーの元にいた。

「仲直りのチャンスを待っているばかりでは不十分よ。
受動的な姿勢には、運や偶然に任せる要素があるけれど、受動的ということは、仲直りができない可能性もあるということ。」


時間をおいて冷静になることで、自分の未熟な点に気づき、反省することもあるとは思う。
でもそれじゃダメだ。
また以前のようになってしまうかもしれない。
自分に嘘をついて、これでいいと言い聞かせて、逃げ腰になって…


「ルーナちゃん。時間は仲直りに有効であっても完璧ではねぇよ。仲直りすんならやっぱ2人できちんと話し合わねぇとなぁ…」

そう言いながらぐびぐびと新しい酒を飲むディーターにアリーは険しい顔になる。

「ちょっとあんた飲みすぎよ」

「いいじゃねぇか。痴話喧嘩を酒の肴にすんのも悪くねぇだろ」

「悪趣味な男ね！」


誤解があるなら、きちんと説明する必要があるし、自分が悪いなら、きちんと謝る必要がある。
そして罪があるなら、きちんと償う必要がある。

自分が言われたら確実に傷つくようなことを言ってしまった上に、態度が悪かったし声を荒らげてしまったし、いろいろ言いすぎてしまった。


「つまらねぇ意地張ってんと、自分のためにもならねぇぞ！」

酔っ払っているディーターの声で考え込んでいたルーナは顔を上げる。

「そうね。視野も考え方も狭くなるしね。
心の器が大きいのは、頑固になって謝れない人より、素直に謝れる人よ。」

「うん…そう…だよね…」

反省には精神的な苦痛を伴うけど、それは心が大きくなっている証拠な気がする。

「でも…仲直りできなかったらどうしよう？」

「だとしても、相手の怒りが少しでも収まったら謝った意味はあるわよ？」