第1章 始まり
「どうしたんだい?」
『あっ、別に大したことじゃ……』
先にお風呂入りたい、とか言うのなんだか恥ずかしいし本当に大したことじゃない。
言わなくていいだろう、と思っていたら
「一緒に入ろうか?」
『えっ!』
樹戸さんがとんでもないことを言ってきた。
一緒に入るって…2人で入るんだよね?え、でもなんで……
グルグルと頭を回転させながら考える。
2人で一緒に入れば、要領がいいのかもしれない。ああ、でも本当に要領のいいかな……?
何も話さないで、ずっと考えて焦っている私。
その姿を、樹戸さんは「くくっ」と肩を震わせながら笑った。
「冗談だよ」
『へっ……』
素っ頓狂な声が出た。それより彼の言葉を真に受けている自分が恥ずかしい。
でも冗談でよかった。
『あはは……』
笑ってみせたけど、声が掠れてる。どんだけ緊張していたんだろう。
でも同じクラスの女子は今も、親か兄弟とかと入っているって言ってたような。
だからおかしく無いのかな。焦っていたのを少し後悔する。
「顔真っ赤だよ」
樹戸さんがそう言ってきた。
またそう言われると、顔がもっと赤くなるから言わないでほしい。
お風呂場に向かっている樹戸さんの背中を見ながら心の中で思った。