第1章 始まり
「何も来てないよ」
そうですか……、と私は小さく呟いた。
「この子洗ってくるよ」
そう言って、樹戸さんはジャケットを脱いだ。
『樹戸さん、毎日ここに来て大変じゃないですか?』
ここは私とお母さんと2人で暮らしているマンション。3ヶ月くらい一緒に住んでいるけど、樹戸さんは自分の家を持っているはず。
帰らなくて大丈夫なのか気になる。お母さんたまにしか帰ってこないのに、来てもあまり意味はなさそう。
「全然大変じゃないよ。それに、ちゃんを1人にさせれないしさ」
樹戸さんは子猫の頭を撫でながら話した。
彼の言葉に私は自分の事なのに、他人事のようにふーん…と頷いた。
『あ、夜ご飯は……』
「作っているのかい?」
『まあ……』
「じゃあ食べようかな」
私はパタパタと少し急いでキッチンに向かった。
お皿に触れてみると少し冷えている。私はレンジで温めようとお皿を持った。
『(あ、先にお風呂入りたかったな。)』
樹戸さんはお風呂に行く準備をしている。
子猫を洗うから多分樹戸さんのお風呂の時間長くなる。
出るのが遅くると、私が入るのも遅くなって寝るのが遅くなる。明日から学校だし、早く寝て早く起きないとなのに。
『(どうしよう……でも良いかな、猫の方が大事だし。)』
悩んでいる私に樹戸さんが声をかけた。