第4章 金魚の恋
ー…
杏寿郎は男を訪ねた日の夜、
夜見世が始まる頃に松風屋の前に来ていた。
店主に半年程前に入った娘を仕舞でお願いした。
この店では柚葉と呼ばれているらしい。
禿に案内され、柚葉の部屋へと向かう杏寿郎の足取りは重かった。
ー…
夜見世が始まったばかりだというのに、
今日は仕舞で呼び出しがかかった。
珍しいな…と思ったが、もっと驚いたのは、
初見のお客様だということなのだ。
夜見世が始まってすぐだ。
私の顔も見ていないのではないだろうか…?
何故だか嫌な予感がするが、
慌てて部屋に戻り、お客様を迎える準備をして待った。
廊下から足音が聞こえてくる。
少し緊張しながらも、目を閉じ背筋を伸ばす。
禿に声をかけられ、戸が開く音がした。
は目を閉じたまま、
柚葉と申します。と挨拶をした。
ゆっくりと目を開く。
優雅に見えるよう、目を開きすぎないように、
お客様と視線を合わせた…が、
目の前にいる男を見た途端、の目が大きく開いた。
……っ…!
男は部屋の戸を閉めると、着物の袖で顔を隠す柚葉ー… の前に座ると、その手を取り、自身の方を向かせた。
今にも泣き出しそうな顔で伏し目がちにこちらを向くに杏寿郎は堪らず、気がつくと力強く抱きしめていた。
すまない!本当にすまない…!!
おれがもっと早く気が付いていれば…不甲斐ない…!
杏寿郎に…聞いた事もないくらい切ない声で語りかけられ、
は両目から涙が溢れてきた。
…いいえ…杏寿郎さんのせいでは…ありません…。
どうか…お気になさらないで下さい…。
気にせずにいられるものか!
君は俺の許嫁であろう?
やっと、見つけた…。生きていてくれて、良かった。
……っ…ありがとうございます…。
ですが、今はもう許嫁では…
今は違うというならば、改めて申し込もう!
、君を身請けさせてくれ。
今度こそ、君と祝言をあげたいんだ。
俺のところへ…来てもらえないだろうか?
……!