第5章 野薔薇
「私は?私はどうだって聞いてんの。」
スカウトマンに強気で自らを推薦している学ランの女生徒の姿を遠巻きに見付ける。
「モデルよ、モデル。何だコラ逃げんなや、ハッキリ言えや。」
「俺たち今からアレに話しかけんの?ちょっと恥ずかしいなぁ。」
2018の形をした眼鏡を掛けて、右手にポップコーン、左手にクレープを持った虎杖が言う。
「オメェもだよ。」
『虎杖くん!私もポップコーン食べた-い!』
あ-ん、と口を開けて虎杖の傍に寄る桃花。
「お!いいよ-。」
桃花の小さな口の中にポップコーンを入れる虎杖。
『む!ごめん!虎杖くんの指まで食べちゃった!』
ポップコーンと一緒に指の先まで咥えてしまったようで。
虎杖の顔が赤らんでる。
また増していく自分の中の苛立ち。
『そっちも、ちょ-だい?あ-ん...』
今度はもう片方の手に持ったクレープを口を開けて待つ。
「あ、うん...」
クレープを差し出した虎杖から一口かじる。
『ん〜っ!おいひ〜いっ!幸せっ!』
頬に手を添えて満面の笑みを浮かべる。
「桜木は甘い物好きなの?...あ、口の端にクリーム付いてる...」
『え!どこ?恥ずかしい...』
虎杖が桃花の口の端に付いたクリームを指で拭おうと手を伸ばした。
「「ここ...」」
桃花の手を引っ張って強引に俺の方に向かせると口の端に付いたクリームをペロリと舌で舐め取った。
『........?!め、めぐっ...み...?!』
真っ赤になって俺を見上げる。
そう、そういう顔は俺だけに見せて。
『わ...私あの子の事呼んで来る...っから、2人はそこで待ってて...っ!』
人混みの中へと駆け出して行く桃花。
「あ!こら!一人で行くな...!」
「....伏黒ぉ...見せ付けるなよ!」
お前は桃花とキスしただろうが。
俺だって見せ付けられてる。
ジト目を向けてくる虎杖を横目に桃花の背中を追う。
こんな人混みの中に放ったらロクな事にならない。