第18章 ヤマモモ
「あのな...。」
一旦足を止め何か言いかけた言葉を途中でしまって私の手を取り再び歩き出す恵。
恵のお部屋へと戻ってくると「座って。」とベッドへ座るよう促され腰を降ろした。
そのすぐ横に恵も一緒に腰を降ろす。
「あのな、俺以外の異性の部屋に1人で行ったら駄目なの。」
『どうして?』
「前にも教えただろ。小児科で...。異性と2人きりになったらどうなるかって...。」
小児科でのこと、さっき憂太くんとお話ししたばかりのことを思い出して顔が熱くなるのを感じる。
『ゅ、憂太くんはそんなコトしないもんっ。』
「本当に?男はいつオオカミになるかなんて分からない。羊の皮を被ったオオカミだっている。」
『.....。』
「いい加減分かれ。心配なんだよ...。」
『ご、ごめんなさぃ...。』
「俺がどうしてこんなに心配するのか分かってる?」
真っ直ぐに私を捕えるきれいな翠色に鼓動が早まるのを感じる。
『ぁの...ぇと...。幼馴染だから...。』
「それだけじゃない。」
『...ぇと.....。』
「大切だから。桃花のことが大切だから。他の男に持って行かれたら困るから。」
『......っ。』
変に緊張してしまいきゅっと部屋着を握る両手に恵の手がそっと重ねられる。
「桃花のことが好きだから。」
『...ゎ、私も...恵のことがだいすき.....。』
「俺の“好き”と桃花の“好き”は多分違う。」
『ぇ...?』
ふわりと影が落ち、恵との距離がゼロになる。
重なるだけですぐに離れていくけれど、そのまま優しくベッドへと倒される身体。
「好きだ。初めて逢ったときから桃花が好き。あのとき加茂さんに言ったことは嘘じゃない。」
あのとき加茂さんに言ったこと...。
記憶の糸を手繰り寄せ思い出す恵の言葉。
“桃花は俺と結婚するって子どもの頃から決まってるんで。”
“俺がそう決めたんで。”
あのときは加茂さんから守るために言ってくれたのだと思っていた。
でも、そうじゃないってこと...?