第1章 あの頃
どのくらい経ったのだろうか?
いつまで経っても痛みもない、何の感覚もない。
死とはこんなにあっさりとしたものなのだろうか..
閉じていた瞼をゆっくりと開いていく。
目に写ったのは先程の禍々しい生き物が形も無い程ぐちゃぐちゃになっている光景と、代わりにサングラスをかけた白髪の背の高い男が立っていた。
「やっ、ナイスガイの僕に助けられたラッキーガール」
サングラスの男が陽気な口調で話す。
『........』
「どしたの、せっかく助けてあげたのに死にたかった、みたいな顔しちゃってさ」
『........』
声が出ない。思考も追い付かない。
一体何が起こったというのか。彼は誰なのか。
声も出せずただ彼を見上げる。
カーテンの隙間から月明かりが差し込み私達の顔をよりはっきりと浮き上がらせた。
「おやおやおや〜?」
両手をズボンのポケットに入れたままこちらに近付き私の目の前にしゃがむと、鼻先が付いてしまいそうな程顔を近付け数秒止まる。
少し下にズレたサングラスの奥から覗く碧い瞳が私の瞳をしっかりと捉えて離さない。
(....碧い..瞳....)
まるで吸い込まれてしまいそうな程美しく、清々とした碧。
この眼のせいで人と視線を合わせる事は苦手なはずなのに、不思議と眼が離せない。
男はくくっと喉を鳴らして笑うと再び立ち上がる。
「これはこれは凄いものを見付けちゃったな」
心底楽しそうな声で口角を上げながら話す。
「桜眼の瞳だ」