第1章 あの頃
信じられない光景が目に映った。
今まで見た事のないくらい大きく禍々しい生き物が母の身体を大きな口で貪っていた。
『........っっ!!』
咄嗟に両手で自らの口を覆う。
何処かに隠れなくてはと足を動かそうとするが思うようには動いてはくれず、ガク付く動作にカタン、と音を立ててしまう。
その音に反応し生き物の沢山の目がこちらに向けられる。
(早く..っ!早くどこかに隠れなくちゃ..!!)
パッと目に付いたクローゼットの中に急いで身を潜める。
膝を抱えて座り込みガタガタと震える身体を震えぬようにとギュッと力を込めるが震えは止まらない。
全身が震え息が上手く出来ない。
時間の感覚が分からなくなる。
とても長いようにも感じ、とても短くも感じた。
クローゼットの扉がゆっくりと開いて行く。
沢山の目が全て私を写していて大きな口と共にニタリと笑った。
『................』
恐怖で声も出ない。
(私もたべられちゃうんだ..っ)
死を目の当たりにした途端、妙に頭の中が冷静になった。
(死んだら、楽になれる。)
この眼のせいで忌み嫌われる事もない。母からの暴言、暴力に耐える事もない。独りで居なくても良い。母の居ない世界で私は生きる意味など見出せない。ただ私は....
死を受け入れゆっくりと目を閉じた。
(ただ私は...)
愛されたかっただけなのだから。