第3章 リナリア *
「...体術だって習ってるんだから少しはやり返せよ...いつも俺には容赦なく打ち込んで来るだろ-が。」
『一般の人に手を出すのは良くないと思って...大事になったら恵がどうなるか..も心配だった、し...』
また俺の心配か。
「手を出されそうになってたのは桃花だろうが。どんだけお人好しだよ、少しはやり返せ..」
桃花に向き直って続ける。
同じようなやり取りを幼い頃から何度繰り返しただろうか。
『....そうだけど...でも...平気だよ、恵が...助けに来てくれるって...信じてたから...』
俺の服の裾を掴んで見上げながら言う。
「〜〜〜っっ....!!..........心配、しただろ......」
『...っ..恵っ!助けてくれてありがとう...っ..』
いつもの様に抱き着いて来るその身体は震えてる。
その身体をそっと包んだ。
「やっぱり、怖かったんじゃね-かよ。」
『...恵...大好き...』
「..........俺も.......」
鼻を啜りながら言う桃花に思わず普段なら言わない一言を口に出してしまった。
『....!恵もって言ってくれたの初めてだね!でも、私の方がもっと大好きっ...!』
滅多に聞く事のない返事に驚いて涙は引っ込んだ様子。
さらに甘い言葉を被せて顔を埋めて来る。
好き。俺も好きだ。俺の方が好き。
分かってる。桃花と俺の好きは違う。
でもこの腕に桃花を収められるのは俺だけで、桃花にはずっと俺しか居なくて、桃花がこの腕の中からすり抜ける事なんてないと思っていたんだ。
ずっと俺の傍に居るって自惚れてたんだ。
この時はまだそう思っていたんだ。