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呪術廻戦 -桜色の瞳-

第10章 オダマキ



side 吉野順平


“人に心なんてない”


真人さんに出逢って、その考えに救われた。
力を与えてもらった。

でも僕が人を殺すことで母の、あの綺麗な魂が穢れてしまうというのなら



僕に人は殺せない。



そう思っていた。
.....はずだった。

その日が来るまでは。




「これは呪いを呼び寄せる呪物なんだ。」

不気味な指を手に取りながら僕に寄り添ってくれる真人さん。

その日、目が覚めてリビングへ行くとそこには腰から下が欠損している母の遺体と、テーブルの上に奇妙な指のような物を見付けた。
どうやったらこんな遺体になる?
腰から下がないにも関わらず、部屋は綺麗で血飛沫の痕も血痕もなく、下半身すらない。

今僕が頼れるのは、僕を理解してくれるのは真人さんしかいない。
衝動的に家を飛び出し、真人さんの所へと向かった。

僕の慌てぶりを見て、僕の家へと真人さんが一緒に来てくれた。
テーブルの上に置かれた指を見付けると、それは“呪いを呼び寄せる呪物”なのだと教えてくれた。

「なんでっ、そんなものが家に.....!!」

声も身体も震えが止まらない。

「人を呪うことで金を稼いでいる呪詛師は多い。そういう連中の仕業だろう。コネと金さえあれば人なんて簡単に呪い殺せるんだよ。心当たりはないかい?君や母親を恨んでいる人間、もしくは...」


「金と暇を持て余した薄暗い人間に。」


すぐに頭に浮かぶヤツがいた。
僕をいつもごみを見るかのような目で見て、散々痛め付けて来た...。

不思議と震えは止まって、静かに真っ黒な何かにとぷりと浸かったよつな気持ちになった。

母の遺体を寝室のベッドへと丁寧に寝かせて、家にあるだけの保冷剤と氷嚢を敷き詰めその上から掛け布団を掛けた。
あんなに綺麗に笑う母の顔を、もう見られることはない。

黒い服は持っていなかったから、母のクローゼットを開けてはじめに目についたもの羽織り、大嫌いな学校へと足を運んだ。

嗅ぎ慣れた朝の空気も
見慣れた通学路も
今日は





少しのムラもなく
きれいに黒く塗り潰された心で見るこの世界は
少し違って見えた。





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