第2章 桜
帰り道、私を不安にさせないためか五条さん..悟はずっと手を繋いでくれていた。
「そうだ、帰ったら恵に挨拶しに行こうか。」
突然、そう提案され不安になる。
いつも悟は来る度に私と同い年の恵ちゃんの話をしてくれていた。
話に聞く限りだとなかなかサバサバとした子のようだ。
私は受け入れてもらえるだろうか..。
「恵は、大丈夫。」
まるで心の内を覗いたかのように頭を撫でながら言う悟。
高専に戻り恵ちゃんの部屋へ向かった。
「恵〜?帰って来てる〜?恵の大好きな五条先生だよ〜!」
ドンドンと扉を叩き扉の向こう側へと話しかける。
するとスグに扉は開き、中から不機嫌そうな声の主が出て来た。
悟の大きな背中で顔が見えない。
「帰ってます。大きな声を出さなくても聞こえてます。大好きではないです。」
(ん?あれ...この声って...)
もしかすると自分はとんでもない勘違いをしていたのではないかと胸がざわつく。
そんな私の胸中を知る由もなく、不機嫌そうに淡々と話す声に気にする様子もなく悟は続ける。
「今日はね!紹介したい子を連れて来たんだぁ!ジャジャ〜ン!今日から一緒に暮らす事になった桜木桃花ちゃんで〜す!」
後ろに居た私を引っ張り出し両肩に手を置いて嬉しそうに言う。
『....めぐみ....ちゃん....?』
思わず声に出してしまった。
それを聞いた悟は声を出して笑う。
「あははっ..!そっかそっか!いつも恵、恵って話しか聞いた事がなかったから桃花は恵の事女の子だと思っていたんだね!」
恵くんは黙ったままこちらを真っ直ぐに見ている。
初対面でとても失礼な事をしてしまった。
怒ってしまっただろうか。気不味くなって俯く。
「ほらほらぁ〜。恵みったら黙りこくっちゃって一目惚れ?きちんとご挨拶しな、さい!」
そう言って悟は恵くんの額にデコピンをした。凄い音..。
「...っっ!!いって...っ!!....伏黒恵。男。」
ぶっきらぼうに言う。
『桜木桃花です...これからお世話になります...』
再び後ろへと下がり、悟の服の袖を引きながら自己紹介をした。
これが恵くんとの初めての出会いだった。