第1章 夏祭り前日【新門紅丸】
腹をくくれねェまま、逃げる口実として使った散歩を終えて、詰所の暖簾をくぐった。
『お、帰ってきた~』
突然、中から現れた気配が、俺の左腕をしっかりとつかむ。
どうやら年貢の納め時らしい。
「…何の用だ?」
『やっと捕まえた~…。明日からの祭り、交代で警備するんでしょ~?休憩時間にさ、少しでいいから、私と回ってくれないかな~、って』
「あァ?そこは紺炉と回るべきだろォが」
『…ん?なんでそこで紺兄が出てくるの~?』
「なんでって」
こいつ、わざと俺に言わせたいのか?
『紅と回れるかも~、って、浴衣とか髪飾りとか用意したから、できれば一緒に行ってほしいんだけど~…、ダメ?』
「だから、なんで俺と…、って、あぁ?今なんつった?」
『う…。何回言わせるのさ~…。紅と2人で祭りを回りたい。紺兄に相談して、紅が好きそうな格好にした、つもり。なので、紺兄の顔を立てるためにも、一緒に祭りに行ってほしい、です』
頬を少し染める聴に、ここ数日の勘違いを自覚して口元を手で隠す。
今の俺には、分かった、と答えるので精一杯だった。