第1章 夏祭り前日【新門紅丸】
散歩のために詰所を出ると、外はうだるような暑さだった。
いたるところにぶら下がってる“祭”と書かれた提灯。
いよいよ明日に迫った祭りだが、あいにくと俺は、そんな気分じゃなかった。
1週間前、人気のないところに紺炉を引っ張っていった聴が、顔色を伺うような素振りで、紺炉に両手を合わせてやがった。
それを受けた紺炉は、仕方ねェなという顔をしながら首を縦に振り、聴が嬉しそうにその場を立ち去った後、満更でもねェ顔をしてやがった。
5日前、ニコニコした聴が紺炉と実家のほうに歩いて行った。
3日前、散歩の途中で2人が店に入っていくのを見た。
…どうやら俺の知らねェうちに、あいつらの関係が変わったらしい。
なんてこたァねェ、似合いの2人じゃねェか。
紺炉にも聴にも、幸せになってもらいてェと思ってた。
2人のことは俺が1番知ってんだ。
なら、1番に祝ってやるのが筋ってもんだろ。
…だってのに、「良かったじゃねェか」つって笑ってる自分を想像したとき、酷く胸が軋んだ。
きっと俺は上手く笑えねェ。
このままじゃ、幻滅されるのがオチだ。
我ながら情けねェが、その話をされるのが嫌で、ここ数日、聴を避け続けた。
あいつは俺に話をしようと、しょっちゅう声をかけてきやがるってのに。