第1章 序章
単独任務。訪れた村では鬼がいる可能性がある、と鴉から報告を受けた。
俺としては不本意だが、潜入して情報を得るために地味に変装して村に潜り込んでいるわけだが…
(此処は…村、と言うより町だな。)
畑、家だけに限らず着物屋、甘味処、食事処などが連なっている。簡素な村などとはかけ離れた、全体が潤っているのだろうか。皆清潔な服を着て、痩せこけた子供もいない。
「あぁ、客かい。疲れてるだろう。」
「一泊頼む。」
この村の周りには藤の家紋の家が無かったから、宿をとり荷物を片付けた。
それから街でぶらぶらと情報収集に当たったが、何故こんなにも村は裕福なのかと問うと決まって帰ってくる答えに、宇髄は首を捻った。
「そりゃあ、うちには巫女様がいるからな。」
「巫女様ぁ?」
「お前、巫女様のこと知らないでこの村に来たのか?」
曰く、その『巫女』とやらの加護を貰うと体の傷や疲れがたちまち消え、元気になれると言う。
「そんな奇跡あるもんかねぇ。」
話を聞いた後に宇髄は確信した。鬼だ。鬼が村の者を騙している。鬼は、そういう嘘を平気でつける地味なやつだから。それに、そんな奇跡が在るのなら、鬼殺隊の隊員は死にやしない。
(…こんなこた考えても仕方ねぇな。)
「その巫女様とやらはどこにいるんだ?」
「なんだ、会いたくなったのか?それなら無理だと思うぜ。なんせ巫女様は外や人をお嫌う。選ばれた人間しか会われない。他人がはいらん様に見張りを付けられるのさ。それを聞いてこの村まで来たお坊ちゃんが追い払われて宿を利用するからこの村は裕福なんだ。」
なるほど、と頷いた。そういうことか。何故かとあれ程気になっていたが。
それはそうと、外を嫌う、ときた。それはきっと、日輪を恐れているのだろう。そして人を物色でもして喰う人間を決めているのか。宇髄の中ではもう、巫女は鬼だと言う疑惑は確信になっていた。
夜に巫女のいる部屋に入り唖然とする。
血鬼術の様な異能をもち、外を嫌う巫女は、朱と白の巫女衣装に身を包み、窓から入って来た宇髄に対し驚きもしなかった。
いや、だからと言ってそこに驚いたわけではない。
その巫女の気配が、人間だったからだ。