津軽高臣 【恋人は公安刑事】手のひらの虹 ※書き直し版※
第1章 デートの約束(主人公side)
わたしは、午前中の仕事を何とか終え、公安課を出て警察庁の廊下を歩いていた。
「おい、クズ昼飯に行くのか?」
加賀さんに声をかけられる。
「はい、そのつもりですが....」
「付き合え、クズ」
「は、はい」
わたしは、一抹の不安を感じながら、加賀さんに連れられて、警察庁近くの鰻屋さんに入った。
ランチのお品書きを見ていた加賀さんはAセットのうな重弁当を選んだようだった。
「クズ、お前は何にする?」
加賀さんが、わたしにランチのお品書きを渡しながら言った。
「えっと、じゃあ.....」
「お前もうな重弁当にしろ」
「は、はい、じゃあ、わたしもそれで....」
(わたしには、最初から選択肢がないですよね?と言う心の声など口に出したら恐ろしい事になる)
加賀さんは、注文が終わると言った。
「津軽班は、どうだ?クズ?働きやすいか?」
「クズなりに頑張ってます」
「ちっ、クズが、明日は公休だったな」
「はい、急な事件がなければ一応」
わたしが、そう答えた時だった。
「嫌だな〜〜〜、兵吾くん、俺のいない間に俺の部下と鰻屋で密会とかさ」
「俺とクズは、密会なんて、してねぇ」
聞き慣れた声に驚いて振り返ると、どことなく、わざとらしい圧のこもった笑顔の津軽さんと心底不機嫌そうな百瀬さんが立っていた。
「兵吾くん、ここの席空いてるし、いいよね?座っちゃって」
「好きにしろ!」
加賀さんが、嫌々そうにそう言うと、津軽さんは、わたしの隣にどさっと座った。
津軽さんの汗の匂いと微かに漂うコロンの匂いが鼻腔をくすぐり、わたしの顔に熱が集まっていくのが分かる。
「モモも、兵吾くんの隣に座んなよ」
不機嫌が、今や爆発寸前の百瀬さんが、加賀さんの隣の席に嫌々椅子を引いて座った。
「でさ、兵吾くん、うちの班のウサに何を話してたわけ?」
「お前には、関係ねぇ事だ」
加賀さんの眉間に入っていたシワがいっそう深くなっていく。
(怖いよ)
険悪な空気を断ち切りたくて、わたしは言った。
「つ、津軽さん、ここのうな重弁当は特別に美味しいそうです!」
(百瀬さんが、加賀さんの隣に座って、わたしに思いっ切りガンつけてる〜〜。怖いんですけど〜〜)
「ウサちゃんがそう言うなら、俺もうな丼セットで。モモは?」
「俺も、津軽さんと同じうな丼セットで」