第25章 藤の華に揺れる〜❷ 〜
「ここは何処だろうか、暗くて静かな地だ
あぁ、そうか、俺は、俺の責務を全うして
死んだのか。
憂の事を置いてきてしまったな、、、
父上と千寿郎にも悲しい思いをさせてしまった。
まだ、未練でいっぱいだなんて、情けないな。」
手をぎゅっと握りしめる。掌に食い込む爪が痛い、と思う。
死んだという実感がなかった。
まだ夢の中にいるような浮遊感。
周りを見渡すと女性が立っていた。
忘れる筈が無い。
「母上…っ、母上!!」
駆け出すもなかなか思うように進まなかったが
すーっと近づく距離にここは異空間なんだなと思った。
「杏寿郎、立派になりましたね、母はとても誇らしく思っていますよ。長い間煉獄家を、あの人の代わりを務めてくれた事。
杏寿郎に年相応な事をさせてあげられなくて、ごめんね、」
頬に冷たい手が添えられる、
幼い頃の事を思い出す、懐かしいぬくもりだった。
「母上、俺は煉獄家に生まれてきて、炎柱になった事に後悔はありません!ただ、添い遂げたいと思っていた人を置いてきてしまいました。男として、不甲斐ないです。」
「槇寿郎さんから、報告は聞いています。
杏寿郎、子供がいる事を知らないですね?」
大きく目が開かれ揺れる
「子供…憂っ、…母上、もう会う事は叶わないのでしょうか、」
「杏寿郎、ついて来なさい。会って触れる事は叶わなくとも、みる事が出来る場所があるのです。」
暗闇を進んで行くと、現世のような茂みが現れた
更に進むと花が咲き誇る真ん中に池の様なモノがあった。
蓮の華が浮かび水面が揺れる。
「覗いて見てみなさい。現世が見れるのです。」
信じがたい話しでは有ったが
黄泉の国なのだから何があったとしても興味の方が優っていた。
覗いた水面が波紋を広げて映し出したのは、
愛しい愛しい君の姿だった。