第23章 藤の華に揺れる〜❶〜
空が高くて雲ひとつない空
蒼くて私の瞳の色ととけて流れでる
鴉達が空を飛ぶ、要が空高く羽ばたいて、何かを追っている様だった。
綺麗な顔をした
大好きな人が眠っている、
燃える様な瞳はもう開かれる事は無かった。
ぽたぽたと頬に涙が落ちては流れる。
声を押し殺して頬を撫で、手を取ると、自分のお腹に触れさせた。
『杏寿郎様、手紙でもお伝えしておけば良かった、杏寿郎様との赤ちゃんが出来ましたよ。…喜んでくれますか?っ、天国で見守っていてくださいね、』
通夜の終わった静かな夜に側に居させてもらう許可をだしたのは
槇寿郎様だった。
子を身籠っていると伝えると杏寿郎と同じ瞳が揺れ動いた。
酷いことを言われる覚悟も出来ていた。
だが、婚姻の許しを出した事やお腹の子に配慮してくれたのだ。
泣き声が聞こえなくなった部屋を覗くと
杏寿郎の手を握り泣き疲れた憂が寝ていた。
『身体が冷えてしまうだろう……なぁ、瑠火、今更俺が言える事では無いんだが、杏寿郎とそっちで出会えたらすまないと、後はこの娘と孫はちゃんと護るからと、伝えてくれないか。』
掛け布団を掛け、眠りにつく2人を見る。
『……杏寿郎、お前は自慢の息子だ。』
そっと大きくなった子の頭を撫でる。部屋を出て
月明かりの下、ボヤける空を眺め酒を飲む。
瑠火との結婚、懐妊、出産、育児
忘れる事などありもしなかった。
杏寿郎も千寿郎も俺と瑠火の宝物だった。
こんな世の中で無ければ、幸せな家庭を築けていたのだろうか、
こんな醜態を晒す事もなく素直に接する事ができたのではないか、
色んな思いが混ざってしまう。
夜はまだ長かった……