第1章 信長様の初めての子守り
陽が西の空へ傾きだした頃、城へと帰り着いた私は、たくさんの護衛の方達にお礼を言って、足早に城内へ入るとすぐ、結華の部屋へと足を向けた。
(もう夕方…本当に1日ゆっくりしてしまったわ…信長様も結華も大丈夫だったかしら…?)
(でも、赤ちゃん、可愛かったなぁ…ふふっ…結華の産まれた時のこと、思い出しちゃった…今だって可愛いけど、産まれた時はほんと小さな宝物って感じで可愛かったんだよね……)
正直なところ、最近は、連日の結華のイヤイヤに振り回されて、思い通りにならない子育てに苛々したり、落ち込んだりすることも多かった。
だから、久しぶりに友人から文が来て、出かけられることになって、心がほっとした。
信長様が気遣ってくれたことも、すごく嬉しかった。
(信長様は、本当は私を一人でお城の外には出したくなかったはずなのに、許して下さって……自分が結華の面倒を見るとまで言って下さった…ご自分も政務でお忙しいはずなのに…)
久しぶりの外出で息抜きできたし、友人との時間はとても楽しかったけど……勝手なもので、今は家族が恋しくて…早く二人に会いたかった。
廊下を早足で歩き、結華の部屋の前まで来ると、襖の向こうは意外にもしんっと静まりかえっていた。
(っ…あれ?静かだな…いないのかな?天主にいる、とか?)
「信長様…結華?」
静かに呼びかけながら襖をそっと開いて、中を覗いてみると………
『あら、まぁ!!』
部屋の中央で、大の字になって眠る信長様
そのお腹の上でうつ伏せになって、すやすやと寝息を立てる結華
父と娘の仲睦まじい寝姿に、じわじわと胸の内が暖まってくるような、なんとも言えない幸福感に包まれる。
あぁ…私、幸せだな、と実感する瞬間だった。
信長様の妻になって 結華を産んで母になって
信長様と出逢って、思い通りにならないことや辛いこともあったし、決して楽しいばかりではなかったけれど……それでも、私は今幸せだと、心の底から思えた。
穏やかな寝息を立てる、最愛の夫と可愛い娘に、起こさぬように薄手の掛け布をかけてやると、その安心しきった寝顔にそっと囁く。
「…信長様…ありがとうございます。二人とも、大好きだよ」
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