第8章 偽りの食事会
「……信長様、あの…」
長い沈黙に耐えられなくなった私は、恐る恐る信長様に声をかけるけれど……
(っ…怖いっ…)
酷く冷たい目でジロリと睨まれて、それ以上は話しかけられなかった。
「まったく、貴様という奴は……来い、行くぞっ!」
「やっ、あっ……」
強引に手を掴まれると、そのままグイグイと引っ張られて歩かされ……気が付けば、そこは薄暗く、ひと気のない路地裏だった。
ーダンッ!
「きゃっ…やっ、いやっ……」
壁際に強く押し付けられ、クイっと顎を掴んで上を向かされる。
近づいてきた深紅の瞳は、獲物を追い詰める獰猛な獣のようだった。
「俺との約束を全て違えるとは……どういうつもりだ?
貴様は、俺のものだという自覚がないのか?」
「ご、ごめんなさい…」
「男との食事会など、許した覚えはない。俺を欺くとは…いい度胸だ。どのような仕置きをされても文句は言えんぞ?」
言うや否や、首筋に顔を近づけて、うなじに歯を立てながら強く吸われた。
頭にまで響くようなピリッとした痛みが走る。
「っ…やっ、痛っ…やだ…」
「くっ…こんなに着飾って、肌を晒して…男を誘うつもりか?」
「んんっ…そんな…そんなつもりじゃ…」
(っ…ひどいっ…そんな風に言われるなんて…いくら信長様でも酷すぎるっ…)
反発心から思わずキッと睨むように見上げてしまい、それが更に信長様の怒りを煽ることになる。
「なんだその目は……くっ…言いつけを守れぬ者には……罰を与えねばならんな」
ニヤリと不敵に口角を吊り上げた信長様は、私の身体を壁にグイっと押し付けた。
固くて冷たい壁と、信長様の大きな身体に挟まれて背中が悲鳴を上げる。
「やっ…痛いっ…信長さま…んんっ!」
壁に押し付けられたまま、言葉を封じるように激しく唇を奪われる。
歯列を割って強引に捩じ込まれた舌が、口内を縦横無尽に犯し始める。
(っ…息、できないっ…くるし…)
息を継ぐ暇さえ与えてくれない激しい口づけに、酸素が足りなくなった頭はくらくらしてしまい、立っていられなくなった私は、壁に凭れるように身体を預けた。