第7章 生まれ日の意味
「朱里、膝を貸せ」
夕餉の後、廻縁に出て朱里と月見酒を愉しんだ俺は、いつものように膝枕を命じた。
朱里は、ふわりと花が綻ぶような笑顔を見せると、ゆったりと膝を差し出した。
無遠慮にゴロリと頭を乗せる。
柔らかくて暖かい…何にも替え難い極上の枕を得た俺は、近頃格段に寝つきが良くなったようだ。
程よく酒が回った身体は少し気怠く、ふわふわとした眠気が断続的に襲って来るのだが、このまま眠ってしまうのは惜しかった。
この後の愛しい女との甘やかな時間を思い、襲い来る眠気を払うためにも話をしようと口を開く。
「……昼間はどうしていた?部屋にいなかっただろう?」
「えっ?あぁ…政宗と厨で、明日のお誕生日の宴で出すお料理の打ち合わせをしてたんです。ふふっ…信長様のお好きなもの、いっぱい用意してますから楽しみにしてて下さいねっ!」
「……あぁ」(政宗と……か)
政宗と二人で、楽しそうに料理の準備をする朱里の姿が目に浮かび、微笑ましいとは思いつつ、何となくモヤモヤした気持ちが拭えない。
小田原から半ば強引に連れ帰り、最近ようやく想いが通じ合って恋仲になったばかりのこの女は、存外世間知らずで純粋すぎるところがあり、俺の秘かな心配などお構いなしに、政宗や家康ら武将達とも親密なのだった。
(俺の気も知らないで…呑気なことを言いおるわ)
「信長様?どうかしましたか?」
「………いや、何でもない」
ふいっと目を逸らした俺を、不思議そうに見ていた朱里だったが、ふと何か思いついたような顔になる。
「……そういえば、信長様は最初のお誕生日のことは覚えておられますか?」
「最初の誕生日?赤子の時のか?また貴様は妙なことを聞くものだな」
「ふふっ…信長様なら、赤子の時のことも鮮明に記憶していそうだと思って……」
「さすがに俺も赤子の時の記憶はない。まぁ、俺は二歳で父母と分かれて那古野城の城主となったからな。そもそも誕生日など…祝ってもらった記憶はないわ」
「っ……」
俺の言葉に、朱里は辛そうに顔を歪める。
(あぁ…貴様にそんな悲しげな顔をさせるつもりなど、なかったのだがな。俺の生まれ日など、どうでもよいことだ。
誰かに祝って欲しいなどと、思ったこともなかったのに……)
あぁ…いや…そうではなかったか
幼き頃の俺は、求めていた…自分がこの世に生まれた意味を