第6章 羽黒
(……探すものが増えたな)
甲高く一声鳴くと、一気に空を駆け上がり、地上にある主殿の姿を目線の端に入れながら、私は天高く飛び立った。
「…………戻ったか」
主殿が差し出す腕に降り立った私は、堂々と胸を張ってみせ、口に咥えていたものを差し出した。
「羽黒…貴様、これは……」
主殿の腕に帰還した私が持ち帰ったのは、一輪の大振りな白い花だった。
見た目にも見事な花弁からは、匂い立つような芳しい花の香りが溢れている。
「くくっ…朱里へ、か? 大した獲物だ」
私は、傷を癒す草など知らない。
だから代わりに、朱里が喜びそうなものを探した。
朱里の笑顔は何にも代え難い。
穢れを知らぬ真っ白な花は、純粋な朱里には似合いだと思ったのだ。
「朱里が戻ったら渡してやろう…あやつの、驚き喜ぶ顔が目に浮かぶな…」
口元に柔らかな笑みを浮かべて、朱里のいる方へ視線を向けた主殿の頭の中には、キラキラと輝く朱里の笑顔が浮かんでいるのだろう。
「……羽黒、貴様も朱里が好きか?」
私を腕に乗せたまま、主殿の大きな手が私の羽を優しい手つきで撫でていく。
「朱里は、誰からも愛されておる。あやつの喜ぶ顔、輝くばかりの笑顔が見たいと…皆がそう思うようだ。
貴様もまた、そのように思うのか?」
(確かに、朱里の笑顔は好ましい。だが…私には、主殿のその穏やかに緩む優しい横顔こそが、好ましく思えるのだが……)
愛おしい者を想って笑みを浮かべる、優しい横顔
愛する者を想うことを知った主殿の横顔は、どんな日向よりも暖かい。
傍にいると、私まで暖かな心地になる。
私は主殿のこの横顔を、この上なく気に入っているのだ。
(朱里に、主殿のこの横顔を見せられぬのは惜しいな…)
私の羽を撫でる手はこの上なく優しく、私に向けられる主殿の瞳は慈愛に満ちている。
主殿の瞳が凍てつくことは、最早ないであろう。
主殿はもう、孤独な存在ではない。
私もまた同じ…守るべき者ができた。
主殿の見つめる先を、私もまた同じように見つめる。
守るべき愛しき者の姿を想い浮かべながら…………