第33章 ハッピーイースター〜春待ちて
「可愛い…」
小さな白ウサギが広蓋の上で二匹並んでちょこんと座っている様があまりにも可愛らしくて、思わず声に出していた。
「信長様、これは…」
ウサギの根付の可愛らしさにうっとりする私とは逆に、家康は戸惑ったような表情で信長様に問いかける。
「見ての通りだ。此度の一番手柄の褒美として貴様ら二人に与える。それぞれ受け取るが良い」
「わぁ…ありがとうございます!すごく可愛い根付ですね。家康、お揃いだね!」
「は?ちょっと…あんた、それ喜んでていいの? というか、何でウサギなんですか?信長様」
(朱里は喜んでるみたいだけど、男の俺にウサギの根付はどう見ても不釣り合いじゃない?しかも朱里とお揃いなんて…)
天下人として揺るぎなき威厳に満ち溢れている信長だが、愛しい妻のことになると時に大人げないほどの独占欲を露わにするのだ。
そんな信長が自分以外の男との揃いの物を彼女に持たせるとは意外だった。
白瑪瑙は高価なものゆえ褒美としては格が高い。老若男女が普段使いできる根付というのも実用性があって、宝探しの褒美としては大仰過ぎなくて良いと思う。
そういった点ではまさに信長らしい気の利いた贈り物と言える。
だが、家康にとってはこの状況は手放しで喜べそうにはなかったのだ。
「宣教師どもの話では、ウサギは卵とともにイースターの象徴らしい。ウサギは繁殖力が高く、多産ゆえにキリスト教においても生命力や繁栄の象徴であり、異国では生命誕生の象徴である卵と並んでイースターの催しに登場するそうだ」
「まぁ!そうなのですか?知りませんでした」
戦国の世ではウサギは愛玩用ではなく狩りの対象として食用にされることが多い。ウサギを可愛らしい生き物だと思っているのは野山を駆けたこともない姫君たちであり、信長が鷹狩りで仕留めた獲物を持ち帰ると武芸に嗜みのある朱里でさえ複雑そうな顔をする。
「ウサギがイースターに関係してるのは分かりましたけど。俺にはこれはちょっと…」
(信長様からの褒美は断れるものじゃないのは分かってるけど…これはできれば断りたい。こんな可愛らしいもの…俺向きじゃない)
「ほぅ…貴様に似合いの品だと思ったのだがな」
「は?どこがですか?朱里はともかく男の俺には不似合いです。朱里、これ、あんたが二つとも貰ってよ」
「ええっ…」