第32章 専属女中は愛されて
このまま身を委ねてしまいたい。
もっと触れて欲しい…もっと甘やかして…
宴の開始の時が刻一刻と迫る中、そんなことを考えてしまう。
一たび触れられれば、女中だからと抑えてきた欲が溢れ出し、愛しい人との二人だけの時間が欲しくなる。
(女中として信長様のお傍にいられた時間は充実していて悔いはないけど、やっぱりこうして思うままに信長様に触れたかった)
「っ、あっ…信長…さまっ」
与えられる甘やかな刺激に溺れ、溢れる恋しさから無意識に名前を呼んで、その大きな背中に腕を回した。
「朱里…」
満足げに微笑んだ信長は、愛おしげに恋人の名を呼ぶと深く身体を重ねていく。
「んんっ!ふっ…あっ…」
身体を開かれて素肌を重ね合うと、その心地良さに我慢できずに歓喜の声が溢れ落ちる。思いがけず艶めかしい声が出てしまい、慌てて口元を押さえようとした私の手を信長様は躊躇うことなく絡め取り、指先に柔く口付けながら、熱の籠った声音で言う。
「声を聞かせろ。俺の名を呼び、俺を欲する声を。貴様が乱れ啼く声が聞きたい」
「あっ、んっ…でも人に…聞かれたら…」
宴の準備のためか、慌ただしく廊下を行き来する人の足音が聞こえていた。時折、話し声が近付いてくると今にも誰かがこちらへ訪れるのではないかと気が気ではなかった。
「聞かれても構わん。貴様が俺のものだと知らしめるのに、誰に遠慮することがあろう」
「んんっ!のぶながさまっ…ああっ…」
独占欲も露わに言いながら奥まで深く分け入られると、抑えてきたなけなしの理性も何処かへ行ってしまい、与えられる歓喜に身を震わせる。
「もっと聞かせろ」
曝け出された胸の先に舌先を這わせながら甘く請われると、お腹の奥がきゅっと締め付けられる。
「信長さまも…」
「……何だ?」
「聞かせて下さい、信長様の声…私も聞きたいです」
「…ああ。聞かせてやる。何度でも…貴様が望むなら」
耳元で甘く囁かれて身も心も蕩け出してしまい、悦びの声を抑えることができなくなった私に、信長様は何度も何度も愛の言葉を注いでくれた。
誰に遠慮することもなく、互いの名を呼び合って愛を交わすひと時に私は身も世もなく溺れていった。