第30章 愛の証し
「今宵は随分と恥じらうのだな」
「えっ…?」
「昨夜は思いのほか大胆だったがな。喰われるかと思った」
悪戯っぽく愉しそうに言うと、信長様は首筋の跡にトントンと指先で触れてみせた。
途端に羞恥で身体の熱がぶわっと上がったような気がした。
「っ…やっ…ご、ごめんなさい。私、そんなつもりでは…」
(やっぱり気付いておられたんだ。うぅ…改めて面と向かって言われると恥ずかしい)
「何を恥じらうことがある?時には貴様から責められるのも悪くはない」
「えっ…せ、責めるって…やっ、もぅ…だから、そんなつもりじゃなくて…あれはその、なんというか無我夢中だったので…」
(そう、わざとじゃない。責めるなんてそんなつもりは…)
何だかとても嬉しそうな信長様の様子に調子が狂ってしまう。
「くくっ…まぁ、よい。どんな貴様も俺にとって愛らしいことには変わりない。貴様の全て…俺にだけ見せよ」
「っ…んっ…あっ…」
柔らかく頬を撫でた手はそのまま自然な感じで顎を掬い、あっと思う間もなく唇が重ねられた。
ちゅっちゅっ、と音を立てて啄むように唇を喰まれ、自然と半開きになったところに舌先を捩じ込まれる。
上顎を奥までねっとりと舐められて、お腹の奥がずくずくっと重たく疼き始める。
「んんっ、っ、は…ぅっ、ふぅ…やぁ…」
唇から頬へ、顎先へと滑るように口付けられ、首筋を強く吸われる。
「あっ…んっ…や、ダメっ…」
じゅじゅっ、と音を立てて痛いぐらいに強く吸われ、思わず声が溢れた。
(やっ…激しっ…跡、付いちゃうっ…)
着付けで隠せぬところに強く口付けられたことに思い至って慌てて身を捩るが、腕の中にきつく囚われていては拒むことも叶わない。
「今宵は俺が貴様を喰ってやろう。貴様は俺のものだと皆に知らしめねばならぬからな」
(貴様は天下人の寵を受けるただ一人の女だと…その証しを余す所なく刻みつけてやろう。決して変わらぬ貴様へのこの愛の深さを…消えることのない証しとして)
月明かりに照らされた二人の影は互いを求めて深く重なり合う。
愛の深さを競い合うかのように、狂おしいほどに強く、深く、愛の証しを互いの肌に刻み付けるのだった。