第4章 信長様の初めてのお菓子作り
とある日の安土城天主にて
その日は珍しく急ぎの政務もなく、信長は、朝からゆったりとした時間を過ごしていた。
ここ最近は日ノ本の情勢も落ち着いており、謀叛や一揆の報告もない。
安土に常駐していた家康や政宗も、自身の領地に戻って久しい。
(そういえば、家康は定期報告のために、明日来ることになっていたな……)
溜まっていた書簡の整理も終わり、久しぶりに時間をかけて刀の手入れもした。
新しく手に入れたばかりの茶器も整理した。
(こんな日も珍しい…朱里は…結華のところか…)
思いがけず一人の時間ができ、さて次は何をしようか、と思案してみるが………
「……書物でも読むか…」
書庫から持ち出したまま読む時間が取れずに部屋の隅に積んであった書物を手に取ってみる。
戦術書が主だが、気になったものを手当たり次第に選んで持ってきたので、和歌集、連歌集、茶の湯の本、など本の種類は多岐に渡っている。
元々、書物を読むのは嫌いではない。
安土城の書庫は、国内外から集めた書物が多数収められており、城主の自分ですら目を通していない本もまだ多くあった。
「………ん?」
その中の一冊が、ふと目について、開いてみると………それは、菓子の作り方の本だった。
(はて…こんな本、選んでいただろうか……?)
パラパラとめくってみると、そこには珍しい京菓子から庶民的な菓子までが、挿絵付きで書かれている。
見知った菓子もいくつか載っていた。
「ほぅ……これは、なかなかに興味深い」
甘味は食べるのも見るのも好きだ。
作るのも……愉しいかもしれない。
信長は、しばらく本を開いて眺めていたが……パタリと閉じると、徐に立ち上がり、書物を小脇に抱えたまま、天主を出て行った。