第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
「……とりあえず状況は理解した。ぶつかって互いに頭をぶつけたことが原因で俺と貴様の中身が入れ替わった…と、俄かには信じ難いがそういうことだろう」
淡々と冷静に状況を判断する信長様の額には、似つかわしくない赤い跡が付いている。鏡がないので自分では見られないが、多分私の額にも同じような跡が付いていることだろう。
「あ、あの、それで元に戻る方法は…?」
「知らん。阿呆か?俺が知るわけなかろう?当事者だぞ、俺は」
「…ですよね。信長様なら何でもお見通しかと思っちゃったんですけど…さすがにこの状況は想定外ですよね」
「まぁ、頭を打ったのが原因ならもう一度ぶつければ元に戻るのが道理やも知れんが…今、それを試す時間はない。俺はこれから軍議に出ねばならん。貴様も急いでおったのではないのか?あのように廊下を走るぐらいには…」
「ああっ、そうでした!私、もう行かないと…」
急いでいた原因である用事のことを思い出した私は慌てて立ち上がり、先へ進もうと足を踏み出したところで引き止められた。
「おい、待て。どこへ行く?」
「どこって…急いでるんです。早く行かないと…」
「どこへ向かうつもりか知らんが、その格好で行くつもりか?」
「えっ…あっ…」
(そうだった…信長様が私で、私は信長様だった!うぅ、紛らわしいな…)
「ど、どうしましょう、信長様っ!私達が入れ替わってしまったこと、皆に知られると拙いですよね!?でも、このままじゃ…」
予想外の出来事に思考が追い付かず、どうしていいか分からずに気持ちばかりが急いてしまう。
「落ち着け、朱里。焦ったところですぐには元に戻りようもないのだ。先ずは目の前の問題を片付けるぞ」
「目の前の問題って…?」
自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべる『私』に、何とも言えない不安を感じてしまうのだった。