第28章 ちぇんじ〜俺が貴様で貴様が俺で
その日、私は急いでいた。
(どうしよう…遅くなっちゃった。早く行かないと!)
逸る気持ちのまま急ぎ足で廊下を進む。
常日頃、秀吉さんから口を酸っぱくして言われている『廊下は走るな』という叱言がチラリと頭を過ぎるけれど、焦る気持ちが勝ってか次第に足の動きは速くなっていた。
幸いにしてすれ違う人はなく、人目を気にせず廊下を駆けていた私は我知らず周りに対する注意力が散漫になっていたのだろう。
勢いよく廊下を進み、突き当たりの角を回ろうとする段になっても速度を僅かに緩めたばかりで、無謀にも遠心力を利用して一気に回り切ろうとした。
ードンッ!
「きゃっ…」
「うわっ!」
思いも寄らぬ激しい衝撃とともに身体が後ろへ弾き飛ばされる。
ゴツンっと何かが額にぶつかり、頭に鈍い痛みを感じたと思ったら派手に尻餅をついていた。
(っ…痛ったぁ…)
頭とお尻の両方に言い様のない痛みを感じ、痛みのせいですぐには状況が理解出来なかった。特に頭に受けた衝撃が酷くて、目の奥でチカチカと星が瞬いた。
それでも誰かにぶつかったのだという認識はあったので、謝罪の言葉を述べなくてはと痛む額を押さえて半身を起こし、相手の存在を確認する。
「ご、ごめんなさ…い。あの、お怪我はありませんか?って…ええっ…あ、あれ?え…?」
一体誰とぶつかったのだろうと顔を上げて見ると、相手もその場に座り込んだまま頭を押さえており、足元の着物の裾がチラリと目に入ったのだが……
(あれ?この着物、何だか見覚えが…)
「っ…誰だ、貴様?」
目の前の『私』が私の声でそう言った。
「えっ…ええっ!?ど、どういうこと?私が…私?」
目の前で額を押さえながら顔を顰めているのは確かに『私』だ。
(それじゃあ私は…っ!?)
頭の片隅に嫌な予感を覚えながら恐る恐る自分の姿を振り返ってみると…これまた見覚えのある漆黒の着流しに純白の羽織が視界に入る。
(こ、これって…まさか、そんな…)
「朱里?」
「信長…様?」
互いに呼びかけたところで否が応でも確信せざるを得なくなる。
(もしかして…もしかしなくても……私達、入れ替わっちゃった?)