第27章 武将達の秘め事⑤
「お前にまで催促されては期待を裏切るわけにはいかないな、家康」
「別に期待してませんけど…」
ニヤニヤと愉しげな笑みを浮かべて自分を見てくる光秀から、家康は嫌そうに視線を逸らす。
(全く…この人はどこまで本気か分からないから面倒なんだ。何考えてるんだか分からない人だよ、ほんと。好みの交わり方…なんて本気で曝け出す気あるのか?)
「俺はいつでも本気だぞ」
「ちょっと……人の頭の中、勝手に読まないでもらえます?」
「おい、お前ら、二人して遊んでんじゃねぇ。ったく…話が逸れてるじゃねぇか」
「光秀様のお好きな体位を教えていただく番でしたね。早くお聞きしたいです!」
期待に満ち溢れた三成の純粋で好奇心いっぱいの視線が光秀に注がれる。
「やれやれ…そこまで期待されては何とも言い出し難い。此度はやはり皆のご想像にお任せする…ということに致そうか」
「は?お前…最初から言う気なかっただろ!この卑怯者!」
「これは手厳しい。そこまで言うなら秀吉、皆の前では言い難いがお前になら…直に教えてやってもいいのだが?」
妖艶な笑みを口元に乗せ、意味ありげな流し目を寄越してくる光秀に秀吉は背にゾクリと甘い疼きを覚えた。
酒に濡れた唇が艶やかに光り、匂い立つような色香が漂う光秀の姿に急速に胸の鼓動が煩くなったような気がして落ち着かない。
揶揄いの色を帯びた光秀の口調にあからさまな反応を見せてしまった己が恥ずかしくてならず、秀吉は動揺を隠すように慌てて反論の声を上げる。
「ば、馬鹿っ、俺にそんな趣味はねぇ!」
「秀吉、お前…………」
血相変えて反論したことで、逆にその場に何とも言えない微妙な空気が漂うのを感じ、秀吉は益々居た堪れない心地になった。
「…秀吉様?急にどうなさいましたか?そんな趣味とは…一体どのような?」
「三成…お前は黙ってろ。話がややこしくなるから」
相変わらずの天然ぶりを発揮する三成を苦々しげに見遣りながら、家康はこの場の混沌ぶりにうんざりしつつあった。
(はぁ…もぅ、何から始まったんだっけ、この話。ほんと訳が分からない。元はと言えば三成がやらしい本なんて持ってるからだし)
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※『黄素妙論』は戦国武将の健康的な性生活の指針を説いた真面目な医術書であり、これは家康のお門違いの偏見である。