第26章 あなたに恋して
1人になってぼんやりとお茶を飲みながら通りの様子を眺めていると、先程から茶屋の前を行ったり来たり、ウロウロと歩いている小さな男の子の姿が目に入る。
小さな拳をグッと握り締め、不安そうに歪められた唇が震えている。
落ち着きなく彷徨う瞳は今にも崩れてしまいそうで、泣くのを必死で我慢しているのが傍目からでも分かった。
(っ…あの子…迷子なのかな?)
昼過ぎの大通りは人の往来も多く、行き交う人々の話し声や物売りの掛け声などが彼方此方から聞こえ、雑然としている。
親とはぐれた小さな子供が歩いていても、誰も気にかける様子はなかった。
今にも泣き出しそうに顔を歪める様子を見てしまった私は、反射的に席を立っていた。
「どうしたの?大丈夫?はぐれちゃったのかな?」
男の子にそっと近付くと、子供の目線の高さにしゃがみ込み、驚かせないようにゆっくりと話しかけた。
男の子はビクッと肩を震わせたものの、独りぼっちで不安だったのだろう、幾分ホッとした顔になる。
「っ…母ちゃんとはぐれちゃって…探したけど、どこにもいないんだ」
小さな声で絞り出すように言うと、瞳ににじわりと涙が滲み出した。きっと、抑えていたものが溢れ出しそうなのだろう…そう思うと胸がツキっと痛んだ。
「お母さん?そうなんだ…じゃあ、一緒に探してあげるから泣かないで」
男の子の頭を宥めるように撫でて立ち上がると、手を繋いで辺りを見回したが、男の子の母親らしき姿は見当たらない。
どの辺りではぐれたのかと聞いてみるが、そこは小さい子供のこと、記憶は曖昧らしく、はっきりとした話は聞けない。
仕方なく、通りに並ぶ店の人に聞きながら周辺を歩いてみることにした。
(この場を離れることになるけど…少しぐらいなら大丈夫だよね…)
信長様から『ここを動くな』と言われたことが心に引っかかりつつも、今にも泣き出しそうな男の子を放っておけなかった私は、信長様が歩いて行った方向を気にしながら、男の子の手を引いて人混みの中を歩き始めたのだった。