第26章 あなたに恋して
「何か見たいものはあるか?」
大通りの賑やかな様子に目を奪われて、右に左にキョロキョロと視線を巡らせている私に、信長様は優しく聞いてくれる。
「あ、いえ…特に何かというものはないんですけど…」
子供みたいにはしゃいでしまっていた自分が恥ずかしくて、小さな声で答えた。
「そうか?ならば先に新しくできた店を回ろうと思うが…見たいものがあれば、その都度遠慮なく申せ」
「はい、ありがとうございます」
そうして信長様の案内で、新しくできた店を数軒回る。
「これは信長様、ようこそお越し下さいました」
「商いはどうだ?困り事などないか?」
「はい、信長様が何かとご配慮下さるおかげで順調に客足も伸びております。ありがとうございます」
「俺は特別なことはしておらん。上手くいっているのなら、それは貴様の努力の賜物だ」
「っ…信長様っ…」
一軒一軒回りながら、信長様は店の佇まいを見たり、店主に話を聞いたりしていく。
町の人も城主である信長様に気兼ねせず気さくに話しかけていて、信長様が町の人達から信頼されていることが分かる。
日々、政務にお忙しくされている中であっても、城下の民へ目を配り、細やかな配慮をされる信長様の姿を垣間見た気がした。
(どこに新しい店ができたのかも全て把握しておられるなんて…毎日あんなにお忙しいのに、いつの間に……)
信長様が京から移って来たという小間物屋の店主と話をされている間、私は店の中を見せてもらっていた。
銀細工やべっ甲の簪、ちりめん細工の袋物に、白粉や紅といった女物の品はどれも目移りするぐらいに美しかった。
私の生まれ育った小田原でも、京から仕入れた品を扱う店はあったし、私も姫という立場上、高価な品々に触れる機会も多かった。
それでも、この安土の城下で見る品々は格別に上等で美しいものであることは私にも分かる。
この日ノ本で安土城下がいかに別格に発展しているかを思い知らされるようだった。
(あ、この紅、綺麗な色だな。でも少し赤みが濃いから派手過ぎるかしら…)
鮮やかな赤が目を惹く紅を見つけた私は、その場に足を止めて見入ってしまった。
惹かれるように自然と紅を手に取る。
普段は濃い色はあまり身に付けない。
大人っぽい色は自分には似合わない気がして、憧れてはみるが自分からは手を出せずにいたのだ。