第20章 お返しは貴方の愛で
安土城大広間
日頃は重々しい雰囲気で軍議が行われ、城主である信長の威圧感たっぷりの重厚な声に、否応なく皆が平伏する場である。
その場に集められた五人の武将達。
信長から急遽呼び出された彼らは、予期せぬ招集に戸惑いを隠せないでいた。
「おいおい、一体何の集まりだ?誰か聞いてる奴いないのか?」
「相変わらず突拍子もないですね、あの人は…秀吉さん、何か聞いてないんですか?」
「いや…俺も分からないんだ。謀叛や一揆の報告は受けてないしな……おい、光秀!お前また遅れてきて…どこ行ってやがった?」
音もなく襖を開き、滑り込むように入ってきて、何食わぬ顔でそーっと席に着いた光秀を、秀吉は目敏く気付いて見咎める。
「おや、御館様はまだか?ならば良し」
「良し、じゃねぇ!臣下たるもの、主(あるじ)が座に着かれる前には当然控えておらねばならないものだ!お前は、もっと御館様を敬え!」
「俺は俺のやり方で敬っているつもりなのだがな…お前のその妄信的な基準で見られても困る」
「煩いぞ、光秀っ!それで、お前の方はどうなんだ?何か報告があるのか?」
「いや、これといった報告はない。至って平和だ…残念なことに」
「残念なことがあるかっ!ったく、お前って奴は…」
「まぁまぁ皆様、じきに信長様もお見えになるでしょうし、先にお茶でも…」
ワイワイと言い合う武将達の横で、三成が茶を入れようと茶筒に手を伸ばす。
「わわっ、三成、待てっ!」
最悪の事態が頭をよぎった秀吉が慌てて手を伸ばすも、僅かに遅く……
「あぁっ…お前、入れすぎだ、それ」
急須に溢れんばかりに入れられた茶葉を見て、秀吉が顔を顰める。
「えっ?そうですか?いつも朱里様がお茶を淹れて下さる時は、茶葉はこれぐらいだったと記憶しておりますが…」
「お前の頭、どうなってるの?一度、割って見てみたいんだけど。そんな山盛りなわけないだろ?」
冷ややかな目で呆れたように三成を見る家康は、心底嫌そうだ。
「貸してみろ、俺がやってやる。これでは御館様にもお出しできんからな」
「いえ、秀吉様にそのようなことをさせるわけには…」
いそいそと茶葉を入れ直す秀吉に、申し訳なさそうに手を伸ばす三成を、横から家康がピシャリと制止する。