第2章 百日(ももか)の祝い
その日の夜
昼間いつもと違うことがあって疲れてしまったのか、結華は珍しく早々と寝ついてくれて、私達は、久方ぶりの夫婦二人の時間を過ごしていた。
湯浴みの後、私の膝枕で横になった信長様は、常よりも頬を赤く染めておられ、珍しく少し酔っておられるようだった。
「珍しいですね、信長様がお酔いになるなんて……」
「ふっ…祝いの席で、少し酒が過ぎたか…まぁ、これぐらいの酔いなら心地良いが……」
ふぅっと息を吐いて、下から手を伸ばし、指先で私の頬に触れる。
すりすりと頬を擦る指先までが、今日は少し火照っているようだった。
結華の食い初めの儀が無事に終わった後、信長様ら武将達と家臣達は酒宴に移り、賑やかな宴は夜まで続いていた。
普段酔った姿を見せない信長様にしては珍しく、天主に戻られた時には足元も少しふらついておられて、心配だったので今宵は湯浴みも一緒に済ませたのだった。
(湯浴みでも、今日は珍しく触れてこられなかったな…いつもなら湯殿でもどこでもお構いなしなのに……実はこう見えて、相当酔ってらっしゃる、とか…??)
「……信長様、今宵はもうお休みになられては?」
頬を摩る指先を捕らえて、きゅっと握る。
「…………………」
「………信長様?」
目を閉じてゆっくりと息を吐いておられる姿が、いつもより艶っぽくて、見ていると胸の鼓動がうるさく騒いでしまう。
捕らえた手にちゅっと軽く口づけると、信長様の身体が一瞬ピクリと反応するが、そのまま起き上がられることはない。
(やっぱり今日はだいぶ酔ってらっしゃるみたい…でも…たまにはこんな信長様もいいな…)
普段と違う姿にときめきを覚えながら、柔らかな黒髪を撫でていると、やがて規則正しい寝息が聞こえ始め、膝にかかる重みが増す。
その無防備な寝顔が愛おしくて、額にそっと口づけを落とす。
「……おやすみなさい、信長様…良い夢見て下さいね」
⁂⁂⁂