第19章 情炎〜戦国バレンタイン
「『ばれんたいん』………?」
初めて聞いた異国の言葉は不思議な響きで私を魅了した。
ここは安土の南蛮寺
いつもなら信長様と一緒に訪れる礼拝に、私は今日は一人で訪れていた。
信長様は年始からずっとお忙しく、日々の政務に視察にと休む間もなく動かれていて、季節が如月に入ってもなかなか二人きりで過ごせる日がなかった。
今日の神父様のお話は『バレンティヌス』という聖人の偉業を讃えるお話だった。
『ローマ帝国皇帝・クラウディウス二世は、愛する人を故郷に残した兵士がいると士気が下がるという理由で、兵士たちの婚姻を禁止していました。そんな中、政策に反対し隠れて多くの兵士たちを結婚させていたのが、キリスト教司祭であるバレンティヌスです。
彼の噂はやがて皇帝の耳に入り、怒った皇帝はバレンティヌスに、二度とそのようなことをしないように、またローマの宗教に改宗するように、と命令しました。しかし、バレンティヌスは愛の尊さを説き続け、皇帝の命令に従わなかったため投獄され、ついには処刑されてしまいます。
人々は、バレンティヌス司祭の勇気ある行動を讃え、彼を愛の守護聖人『聖バレンティヌス(聖バレンタイン)』として祭るようになりました。
彼が処刑された2月14日は、彼の死を悼み、恋人達が愛を育む日としてキリスト教の祝祭日とされ、愛する人と過ごす大切な日になっています』
「恋人達が愛を育む日なんて…素敵な記念日ですね、神父様」
礼拝が終わり、後片付けを手伝いながら、私はオルガンティノ神父に話しかけた。
「はい、朱里様。この日は愛する恋人や家族、大切な人に贈り物をする日でもあります」
「贈り物、ですか?」
「ええ、何でもいいのです。花でも菓子でも…日頃の感謝を伝えたり、愛を告白したり…と、大切な人との大切な時間を過ごす日ですから」
「わぁ…素敵なお話ですね!」
オルガンティノ神父の語るお話に心打たれた私は、異国の風習である『ばれんたいん』というものを、是非ともやってみたいと思い始めていた。
(いつも私を暖かく見守ってくれている大切な人達に、感謝を込めて菓子を贈ろう!秀吉さんや政宗…武将達だけでなく家臣達や侍女達にも。ささやかでもいい、日頃の感謝を伝えたい。
もちろん……信長様にも……)