第16章 小さな恋人①
朱里を無理矢理に追い出した信長は、ピシャリと閉めた襖を背に深い溜め息を吐く。
冷たい態度をとってしまったが、ああでもしないとあのまま朱里を強引に襲ってしまいそうだったから仕方がない。
散々揶揄って悪戯もしてやったが、やはり子供の身体で愛しい女を抱くというのは、男の矜持に関わるというか何というか…納得がいかなかったのだ。
そうは言っても身体は正直なので、触れれば反応し、熱く滾る。
先程も理性と欲望の狭間で葛藤し、何とか自制したというのに、朱里のあの無自覚な愛らしさといったら……正直言って参った。
半ば無理矢理に抑えつけた欲望は、いまだ熱く膨らむばかりで、解放されることをひたすらに切望して天を仰いでいる。
(見た目は小さくなっても、己の身体は朱里を求めて止まないとは…全く…厄介な身体になったものよ)
朱里には一晩寝れば元に戻るだろうと言ったが、その言葉に明確な確信もなく、突如こんな厄介な身の上になった原因にも思い当たらない。
だが、信長は不思議と己のこの状況を悲観してはいなかった。
子供の姿になって見る城下の様子は、なかなかに興味深いものだった。
町の賑わい、人々の日々の暮らしを見ることは普段からしていることではあるが、身分を隠し一人の少年として見た安土の町は新鮮だった。
自由気ままに尾張の城下を歩き回っていた、子供の頃の自分を思い出すようだった。
朱里が俺を子供扱いすることは気に入らなかったが、あやつが母になったらこんな感じなのかと、そんな他愛もないことをおぼろげにも考えてしまう自分に戸惑ってもいた。
(だが…やはりあやつとは同じ目線で同じものを見たい)
目が覚めたら元どおり、愛しい女をこの腕に抱いて、思うままに愛でたいと願いながら、その夜信長は一人、小さな身体を褥に横たえるのだった。