第15章 赦す者 赦される者
「やめて欲しければ、そう言えば終いにしてやる」
「あっ…んっ…ぃゃあ…」
もはや終いにする気など微塵もなかったが、焦らすように触れてやれば、朱里は悩ましげに喘ぎながら身を捩らせた。
「……いや…」
「聞こえんな」
「…お終いに、なんて、しないで。信長さまがもっと欲しいっ…」
情欲に掠れた声で強請られて、全身の血が一気に湧き上がる。
「朱里…」
「あっ…信長さまっ…あぁ!」
「ぐっ…あぁ……」
乱れる肢体の、奥深くまで熱を埋めると、喉の奥が震える。
一つに繋がった身体は、互いの熱を求め合い、激しく貪り合う。
「信長様っ…」
情欲に溺れながら、快楽に潤む瞳で朱里は信長を見つめる。
「愛しています、信長様」
「っ……」
(俺の欲する言葉すら、貴様は俺より知っているのか…)
どれほど身体を蹂躙しようと、朱里はたった一言で容易く信長の心を支配する。
朱里の言葉一つで、信長は自分が鬼にも仏にもなれる思いがした。
(本当に、この女には敵わんな)
「朱里っ…愛してる」
甘く掠れた声で愛を囁くと、朱里は嬉しそうにふわりと微笑んだ。
その笑顔がこの世の何よりも尊いもののように思えた。
「んっ…あっ、あぁ…信長さまっ…」
「くっ…はっ…朱里っ…」
深く身体を重ね、己の熱を分け与えるかのように強く、深く、朱里を抱く。
愛しい女の奥深くへ己の熱を埋めるたびに、信長の心の奥も暖かいもので満ちていくようだった。
朱里に触れるたび、信長の身も心も、この上ない充足感を感じて、ふるりと震える。
(形の無いものに名付けるなど無意味なことだと思っていたが…今ならば名付けたくなる気持ちが少し理解できる)
言葉にして書き留めておきたくなるほど過ぎ去るのが惜しい、この瞬間のこと……
心の奥深くまで暖かいもので満ちていくような、この言い様のないほどに満たされた瞬間……
(これをきっと……人は『幸福』と呼ぶのだろうな)