第15章 赦す者 赦される者
夜ごと夢を見る
夜闇から、不意に現れるギラリと光る白刃
それがこの身を襲う寸前、辺りに散る、深い闇よりも暗い赤
手のひらに鈍く残る、肉を裂いた生々しい感触
「………様っ?信長様っ!?」
「っ……!?」
ハッと目を開くと、目の前には眉間に皺を寄せた悩ましげな朱里の顔があった。
(…………眩しいな)
夜明け前の薄暗さの中にあっても、朱里の眼差しは太陽の光のように眩しくて、思わず目を細める。
(………またあの夢か……)
額にじんわりと汗が浮かんでいるのを自覚しながら、褥から身体を起こす。
「大丈夫ですか?ここのところ、毎晩うなされていらっしゃいますよ?」
「……ああ、大事ない。貴様が案ずることはない」
(たかが夢ごときで、貴様が顔を曇らせる必要などない)
「…………」
「何だ?何か不満か?」
朱里は信長を咎めるように、暗い眼差しでじっと見つめてくる。
「連日うなされて……大事ないわけないです。私にまで隠さなくてもいいんじゃないですか?
それとも、私には…言えぬことですか?」
「別に…隠しているわけではない。夢の中のことなど…話しても仕方がないだろう」
「夢……やっぱり、悪い夢にうなされていたんですね。どんな夢なのか、私に話して下さい!」
朱里はきっぱりと言い放つと、徐に身体を起こし、同じように身体を起こして褥の上に胡座を掻いていた信長に正面から向き合った。
真剣な眼差しは、真っ直ぐに信長に向けられていて、そこには一切の迷いがない。
純粋で真面目で、一点の曇りもない澄んだ瞳に見つめられて、信長の心は俄かにざわざわと騒ぎ始める。
「……話して下さるまで、今日は褥から出してあげません!」
眉をキュッと寄せた厳しい顔で睨まれるが、信長にとってはその表情すら愛らしいとしか思えず、胸の内に穏やかな心地が広がっていくようだった。
(朱里と一緒なら、一日中褥の中で過ごしても一向に構わんが…これは、話さないと臍を曲げるな。一日中、口を聞かんなどと言われても困る…)
「……人を斬る夢だ」
「えっ……?」
「夜、寝込みを襲われ、俺がその刺客を討ち取る…そういう夢だ」
「っ…………」
「その感触が妙に生々しく不快で……それで目が覚める。それだけだ」