第13章 肝試し
後で聞いたところによると、信長様の怪談話は、真実とは少し違ったものだったらしい。
「石垣がなかなか組み上がらなくて、崩落事故に人足が巻き込まれる事態になったのは事実だ。まぁ、あれだけの巨石を組み上げるんだから、一筋縄ではいかないよ。
困った職人達からは、実際に人柱を立てる案も出たんだ。
大工頭の男が娘を人柱に差し出そうとしたのも本当だ。
けど、御館様はそれをお許しにならなかった。
『人柱など愚かな迷信に過ぎん。そんなものに頼らず、技術と工夫で何とかするのが職人であろう。どうしてもと言うのなら、人の代わりに別のものを埋めよ』
そう言われて、人柱は固く禁じられたんだ」
秀吉さんは、懐かしそうに話をしてくれる。
「そうだったんだ…でも、別のものって…結局、何を埋めたの?」
「人柱の代わりになったのは、石仏…お地蔵さんだよ」
秀吉さんは、悪戯っぽく笑う。
「城造りには大量の石材が必要になるのは知ってるか?築城にあたり、近隣の村々には石材の拠出令が出される。それこそ、そこら辺の石から墓石、石仏まで、ある程度の大きさの石という石は全てだ。これはどこの国の築城でも同じだ。
御館様は、人の代わりに地蔵を埋めよ、とお命じになったんだ。
この世に人の命より大事なものはない、御仏が人々を助けるというのなら人の代わりになるのが道理であると、そう仰ってな。
仏様を埋めるなんて罰当たりだと、御館様を非難する者はいたけどな…俺はそうは思わないよ」
信長様のことを語る秀吉さんの目は、曇りのない真っ直ぐな目だった。
「このお城には、たくさんの人の思いが込められてるんだね」
「あぁ…そうだな」
ただ豪華で美しいだけの城じゃない、そこにはたくさんの人の願いが込められているんだと、何だかしみじみと考えさせられてしまった。
「あ、でも…それじゃあ、私が見たあの女の人…あれは結局、幻だったのかな……。ねぇ、秀吉さん、その大工頭の娘さんって…」
「ん?あぁ…その娘は人柱にはならなくて済んだが、それから暫くして流行り病で亡くなったんだ。毎日、父親の仕事を見に来てて城の完成を楽しみにしてたんだけど…可哀想にな」
「そんな……」
あれは結局、私の恐怖心が見せた幻だったのか…それとも、城の完成を見ずに亡くなった娘さんの魂だったのか……本当のところは誰にも分からないのだった。