第15章 無限列車の後
「…うむ、そうだな」
珍しく歯切れが悪い杏寿郎。
「…よし!俺は愛のことを一等好いている!こんな不甲斐ない体ではあるが、そばにいたいと思う。愛はどうだろうか?」
杏寿郎は目をぐるぐるとさせながら、一気に言い切った。
愛の方を見られず、視線は明後日の方向を向いている。
『…杏寿郎様…』
愛はポロポロと涙を流した。
愛はそれを拭うこともせず、ただ目の前で生きている杏寿郎を見つめた。
「む!?そんなに嫌だったか!?」
杏寿郎はわたわたと慌てて、その涙を拭おうとして出した手を引っ込めた。
「俺はいつも距離感がおかしいと言われる。このように、未婚の男女は軽々しく肌に触れてはいけない、と」
愛は杏寿郎の引っ込めた手を両手で包み込み、そのまま自分の頬へと持っていった。
『いえ、いえ…わたしが杏寿郎様に触れられるのを嫌だと思ったことはありません。貴方の手はいつも元気をくれます』
愛は杏寿郎の手にすりすりっと顔を寄せる。
その仕草にドキリとした杏寿郎。
『…泣いたのは嬉しかったからです』
愛が話し出す。
『わたしは貴方のことを見てきました、いつも。触れてはいけない存在だと、欲してはいけない人だと思っていました。わたしも貴方が好きです。おそばにいさせてください』
愛はなおもポロポロと涙をこぼし続ける。
その姿を見て、杏寿郎はまたぽんぽんと頭を撫でた。
「ありがとう、愛」
「もう一つ、話したいことがある」
そう言って、杏寿郎も話し始めた。