第2章 第二章 煉獄家へ
___カポーン
『あぁー、きもちいいいいー』
口元が覆うぐらい深く湯につかる愛。
昨日はお風呂に入った記憶もなく、ベタついた体をきれいにできてご満悦のようだ。
「愛、失礼する!」
扉の外で杏寿郎が叫ぶ。
『へ?あ…煉獄様!?』
見られているわけでもないのに、咄嗟に体を隠す、
「ここに替えの着物を置いておく。母のものだが、辛抱してくれ。」
と早口に言うと足早に出て行く足音が聞こえた。
『…え?お母さんのものって…それって形見なんじゃ…どうしよ…』
十分に温まった愛は風呂から上がった。
愛は考え込むが裸で歩き回るわけにもいかないので、大切そうに慎重に袖を通す。
『素敵な着物…。上手に着られるかしら?』
きれいな山吹色に紺色っぽい帯。
シンプルではあるが、素人目に見ても上質なものだとわかる。
『うん、剣道着なら着られるんだけどな。帯の結び方は知らない。あぁ、浴衣ぐらい着られるようにしとくんだった…』
愛はしばらく帯と格闘していたが、やはりなかなか難しいらしい。
もたもたとしている間にどんどん時間が経っていく。
「愛?大丈夫か?のぼせたか?」
なかなか戻ってこない愛を心配した杏寿郎が様子を見に来てくれたようだ。
『あぁ!すいません!せっかくお借りした着物なのに、帯が結べなくて…迷惑かけてばかりで本当にすいません。』
愛は情けなさに少し鼻声になる。
「落ち着け。帯の結び方も忘れたのか?大変だな。うーむ、失礼するぞ!」
ガラッ
『あっ…煉獄様』
「大丈夫だ。見ていない。」
目をつぶりながら杏寿郎は足を進める。
見えているかのようにスタスタと歩く。
愛の前でピタリと止まる。
「帯を」
愛の顔は真っ赤で杏寿郎が目をつぶっていて心底よかったと思っている。
「では、失礼する。」