第12章 機能回復訓練
あの恐ろしい尋問が終わり、何とか訴追を免れた愛。
やはり、疲労困憊であったため、あの後、隠によって炭治郎と同じく蝶屋敷へと連れて行かれた。
杏寿郎は自分の屋敷へ、と言ったが、愛を看病するものがいないため一旦そちらへという運びになった。
女性ということで個室があてがわれた。
そこでしばらく死んだように眠った。
目が覚めたとき、とっぷりと日が暮れていた。
『あー、よく寝た!』
んー!と伸びをしながら、月明かりに惹かれて窓の外を見た。
体はギシギシと傷んだが、ふらふらと立ち上がることができた。
『くぁー、色々あったなぁ…』
愛が物思いにふけっていると、外の木がざわさわと揺れた。
その木に月明かりでもわかる燃えるような髪色を持った人影がこちらを覗いていた。
猫のように吊り上がった美しい瞳が浮かび上がっていた。
『…ええ?杏寿郎様!?』
思わず、窓を開け叫ぶ。
「愛、すまない。任務前に様子を確認しておきたくて…。胡蝶には門限だからと中に入れてもらえず、このようなことになった。不躾なこととは思ったが…一目顔が見られてよかった」
普段、真面目な杏寿郎。
いくらか葛藤があったが、どうしても気がかりで愛に会いにきたようだ。
『…ふふ、びっくりしましたが、とても嬉しいです。わたしはこの通り元気です!…やるべきこともはっきりしました』
愛はふわりと笑い、どこか吹っ切れたような顔をしていた。
『…杏寿郎様はわたしが寝ていたらどうするおつもりだったのですか?』
タイミングが良かっただけで、この木登りは無駄に終わったかもしれない。
「そのときはそれまでだ。…昼間はすまなかった。愛はそんなことしないとわかっていたが、庇うこともできなかった」
くたくたに疲れていて今にも倒れそうな状態で連れ出すことを止めらなかったこと。
挙げ句の果てに鬼と通じているのではという嫌疑をかけられても、潔白を証明するだけの証拠もなく、皆を止められなかったのを悔やんでいるようだ。
『…いえ、わたしの出自が怪しいのはわかりきったことですので。杏寿郎様が稀有な例なのですよ。訳のわからないやつをおいてくださってありがとうございます。誓って、それを裏切るようなことは致しません。杏寿郎様にはそれをお伝えしておきたい』